「ハリーの災難」1955(パラマウント)、美しい景色と爽やかな喜劇的スリラー、新人時代のシャーリー・マクレーン
タイトルの邦訳がちょっと誤解を生む。The Troule with Harry、
だから、まあ「ハリーに起因するトラブル」だろうが、「ハ
リーの災難」とハリーに降り掛かった災難のような放題だ。
まあ、そういう面はあるのは確かだが、意味合いが原題と違っ
てしまった。
監督はあのヒッチコックである。なんというか「死体に起因
する喜劇」である。ヒッチコック監督、前作はあの「裏窓」だ
ろうか。ヒッチコックの持つ芸術的精神とアイデア発想の創造
性を感じさせる、云うならば喜劇的スリラーだ。でも、喜劇的
スリラーは作れと言われたら難しい代物だ。それをまずは実現
している。原作は無論ある。スクリプト、カメラは「裏窓」と
共通で、「裏窓」グループでの第二作、しかも野心作である。
死体を巡っての人物の中、誰が主役だろうか、どうもそれは
判然としない。死体の靴を見せ、くつ下を見せる死体が主役だ
ろうか。画面を足が大きく占領するのだ。
キャストで目を引くのはいやでも新人時代のシャーリー・マク
レーン。小森和子と出会った時期とはたして、その前である。な
にせ、この映画の頃、シャーリーはブロードウェーのダンサーあ
がりで無名だった。いわゆる白人ブロンド美女タイプではなく、
非常に個性ある新人女優であった。
舞台はバーモント州、日本人にバーモント州といってカレーの
連想くらいしかないのだが、地図で見たらアメリカの全く北東端
くらいである。その森の中の小さな村。幼い男児アニーが男の死
体を森で発見する。しかも少年の母親が再婚して別居中のハリー
という男だった、ではこのハリーを誰が殺ったのか?その謎解き
なのだが、簡単にナゾが解けてはつまらない。そこで、話がもつ
れるのだ。
死んだ男、ハリーは別居中の妻を訪れた。妻は牛乳瓶で頭を殴
って追い返した。ハリーは森の中で老嬢!を暴行未遂、彼女はハ
イヒールで頭を殴って退散させた。そのとき、猟銃でウサギを射
っていた老人、もう一人、少年の母を愛している青年画家もいる。
誰が一番、疑われるのか?死体を埋めて隠したほうが有利な者と
死体発見を警察に知らせた方が都合がいい者、いずれを選んだ方
が有利か、事件関係者の心理もさまよう、で何度も死体を埋めた
り、掘り返したり、この繰り返しが滑稽で面白いのだ。ただ銃弾
で死んだのではないことは分かった。死因はナゾだ。と、死体が
主役というのもユニークだ。ヒッチコックは死体をめぐる人々の
人物描写に重点を置いている。スリラーは見せかけだ。人間表現
だ。少年の母のシャーリーがいい。人間喜劇的に皆活用されてい
る。だが森の背景、紅葉の名所なのだろうか、染み入るように美
しいのである。いい効果を上げていると思う。日本公開は1956年
初頭だったようだ。
シャーリー・マックレーン
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