映画『つづり方兄妹』1958(東京映画)長く探し求めた映画、題名すらわからなかった、67年ぶりにやっと

 0911-10.jpg
 私の幼い頃、まだ保育園にも入らない頃、ある映画を見た。
その映画に派生の漫画の本を持っていた。男の子が犬を抱え、
それよりちょっと小さい女の子が一緒に写った映画の場面、
が漫画の表紙だった。漫画では「四つ目の犬」という節が、
何か田舎めいた場所が舞台で家は掘っ立て小屋同然。雨の日、
少年はなぜかその中でさまよい、自宅に戻って入った途端、入
口の土手か畳の上に前のめりに倒れ、そのまま亡くなった。そ
の墓標、・・・・・・はてその映画の題名であるが全然わから
なかった。あれから67年、ついにその映画の題名と内容を知る
ことができた。また漫画でなく、本も出ていたことを知った。
古書で入手して読んでみた。

 犬を拾ってきたのか、その場面と、最後に少年が雨に濡れて
家に入って倒れる場面が今でも脳裏に焼き付いている。

 終戦後、しばらく「綴り方兄弟、姉妹」が何組も全国で輩出
した。小倉出身の島村姉妹は有名だ、今その文章を読んでも大
人もたじたじになる鋭い素晴らしい内容、感服した。これは、
やはり「綴方兄弟姉妹」がまず主人公の映画だ。

 戦前も高峰秀子主演『綴方教室』という映画があった。もち
ろん、本物の著名な綴方少女、豊田さんがいたわけである。

 この映画は台湾から戦後引き上げてきてブリキ業を営みなが
ら、京都からやや離れた大阪府の枚方市の外れの農村地帯に住
む野村一家の子どもたちが主人公なのである。時代設定は昭和
26年から30年くらいという。

 なんともひどいあばら屋、掘っ立て小屋同然の家に両親と子供
供で7人暮らし。子供たちを演じるのは関西に児童劇団所属の少年
、少女らしい。少年は中学三年との設定、圭一という。妹はマチ
子、戦後一斉を風靡の「君の名は」の影響か、次男の小学生は文
雄、フーフーというあだ名。さらに幼い、次女、三女がいる。

 戦後はまだまだ、誰しも貧しかった。この家庭の貧しさだけで
はまた、映画にもならない。三人の子供、長男、次男、長女がそ
ろって綴方がうまい、長女マチ子は口唇に異常があってうまく話
せないが、綴方ではうまく表現ができる。文雄は綴方が唯一の楽
しみ、この長男、次男、長女の三人の作文が新聞社主宰の懸賞コン
クールやモスクワ国際綴方コンテストで入賞する。この三人の兄
妹の実際の文章に材を取り、久松静児監督、脚本、八住利雄で映
画化したのだ。公開は1958年、昭和33年8月ころだったという。

 私自身、犬をあやす場面と雨に濡れた少年が家に入って倒れる
場面しか記憶になかった。でも本を読むと、この子供たちにまさ
に共感を覚えた。島村兄弟と、どうかな、と思ったが、実にいい。
貧し一家の生活が当時の時代とともに懐かしさを覚えた。

 でも主人公は一人、といえば文雄少年、次男だろう。貧乏生活
でも屈託がない、まさにユーモアがある。あの当時、子供たちは
今のようなハイテクの遊び道具など想像すらできない、貧しくモ
ノ不足だったが、自然は周囲に溢れ、遊びには全然不自由どころ
か、子供たちの天国だったと思う。いかに貧しかろうが、子供は
子供として天地を持つ、単行本でも表現されている。

 当時の評を読んだが、「少年の演技は特筆すべき価値がある。
久松監督の演技指導は従来の日本の少年描写の類型の枠を破って
いる」

 文雄は父親が偏屈で仕事も怠けがちなことを批判する。母が
食べ物の用意に困っていることも身にしみて感じている。それ
でいてしっかり子供としての親への親近感、愛情は持っている。
子供が懸賞でラジを貰うと、親はお金でくれたら、と愚痴る。
だが子どもの目的は賞品じゃない、楽しみで書いているのだか
ら。

 印象に強く残っていた少年が子犬を拾って可愛がる場面、だ
が父親は犬を飼うことに反対する。そこで母と兄妹が子犬を父
親に見えないよう、裏の方に隠し、飼っていたらある暴風雨の
日に、子犬を心配して学校から雨に濡れたまま帰ってきた文雄
が家に入った途端、倒れる、昔みた漫画でも、実際に見た映画
でも最も印象的な場面だ。結局、文雄は死んでしまう。

 文雄役は頭師孝雄 1946~2005,成長してからが名脇役で
活躍。58歳で死去

 Tsuzurikata-Kyodai-1.jpg

 少年が死んだ後、モスクワ作文コンクールでの入賞の知らせ
が舞い込んだ。三人の兄妹に特別な愛情をもつ小学校の先生、
香川京子だが見舞いに来る。この少年の死で「意外に映画の後
味が悪いものになった」という当時の評は分かる気がする。
香川京子のお見舞いがあまりに心がこもっていないように見え
るという批判もあったそうだ。

 「・・・・・あの映画、あの漫画はいったい何の話だった?」
と思い続けて67年ぶりにやっと題名と内容がわかった。さすがに
映画DYDはないし、Prime Videoでもない。保存されているのかど
うか。「東京映画制作」という。

この記事へのコメント

killy
2025年07月10日 16:54
やさしい少年を死なせてしまった映画はストーリーとはいえ、残酷でした。