井上靖『戦国無頼』1952,読後、見事なまでに何も残らない小説。ただ戦国モノの仮面を被った井上パターンのメロドラマ
思えば井上靖は本当に多作な作家だった。ジャンルも多彩、
その中で歴史モノ、日本のしかも戦国時代を舞台にしたジャン
ルもある。人気な作品は『風林火山』だろうが、戦記物ではな
いが『淀殿日記』、・・・・・でまた『戦国無頼』も代表作と
見なされる。時期的には『風林火山』が1955である。それに先
行するのが『戦国無頼』である。映画化もされていると思う。
『戦国無頼』は信長が勢力を得てから謀反にあって滅ぶまで
、天正十年間の混乱、激動の時代を背景に、主に近江の琵琶湖
を舞台に繰り広げられるドラマである。小谷城の浅井長政が信
長に滅ぼされた後、戦場に生き残った三人の武士がいた。一人
はこの小説の主人公である、佐々木疾風之介、他の二人は弥平
次と十郎太、三人はそれぞれの運命を辿りながら、その運命は
また互いに絡み合う。
琵琶湖に近い比良の山間部には、半ば山賊化したような渡世
の浪人たちの部落がある。その頭目の娘、おりようは絶世の美
女である。疾風之介はこの部落に匿われ、おりようと結ばれる。
だが彼には加乃という彼女もいた。加乃は元は小谷城の奥女中
であった。小谷城の落城の際、その直前、疾風之介が十郎太に
頼んで生き延びさせたから、どこかで生きているはずであった。
十郎太は立身出世だけを唯一の目的として生きている男だっ
た。偉くなりそうな部将を探しては、出世の手づるを求めてい
る。その十郎太も疾風之介から預かった加乃に思いを寄せてい
る。
弥平次は琵琶湖を荒らし回る「海賊」の団長となっている。
比良の部落を逃げ出し、行方を隠した疾風之介の後を追ってき
た「おりよう」は、弥平次の元に留まり、会僕の仲間から彼の
消息を知ろうと懸命になっている。おりよう、はある日、湖上
で加乃の乗った舟に出会い、この二人の女の上にも険しい空気
が渦巻いた。だが病弱な加乃はほどなく死んでしまう。
明智光秀が本能寺の信長を討って一時的に天下を取ったかの
ようでもあった。ここに十郎太は出世の緒があると馳せ参じる。
だがそこは明智の一党であった疾風之介も既に加わっていた。
が光秀も三日天下、山崎の戦いの後、逃げ落ちる途中で伏兵に
討ち取られる。山崎の戦いで十郎太は斃れる。おりようは急を
聞いて、弥平次をそそのかし、疾風之介を救いに行く。弥平次
も戦場に斃れるが、疾風之介負傷しながらも、おりようのもと
に帰る。
とまあ、時代、舞台は至れり尽くせりの感があってストーリー
も結構な波乱万丈、なのだが、要は、これを現代に移しても、
唐の時代の敦煌に移しても、終戦後の東京に移しても、要は全
く基本は同じ、「母性思慕」を基本にしたメロドラマ、としか
思えない。「蒼き狼」だって基本は同じ、「射程」も同じよう
なもの、井上文学は同一コンセプトを時代、舞台を変えて巧妙
にメロドラマしたての小説を仕上げている。通俗小説と言うな
ら通俗小説を極めた作家に違いない。読んで、・・・・・何も
残らない。「風林火山」も残らないが、まあ山本勘助、由布姫
の方が実在感があるといえばあるが、・・・・・・ちょっと。
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