足立巻一『夕暮れに苺を植えて』(朝日文芸文庫)、関西学院中等部時代の恩師の伝記的小説
足立巻一、1913~1985,東京に生まれ祖父は漢詩人、足立
清三、)幼年期、祖父と流浪の生活も経験し、祖父も斃れ、母方
の叔父の住む神戸に、そこで諏訪山小学校から関西学院中等部
、その国語科教師だった池部宗七(石川乙馬)から短歌などの教え
を受ける。晩年は大阪芸大教授、さらに神戸女子大国文科教授に
就任。
この本は関西学院中等部で出会った国語科教師、池部宗七の評
伝である。この出会いから足立の人生は展開したと言っていい。
現実、このような意義深い出会いに巡り会えないものだが、その
点、足立は幸運であった。
足立が関西学院中等部、無論、旧制中学だがそこで教えを受けた
恩師、池部宗七の生涯を実に丹念に綴ったものだ。実によく調べた
ものだと思う。評伝と云うより、伝奇小説というべきか、
「先生は、この作品で繰り返し述べたように、私が昭和二年から
七年まで関西学院中等部の生徒だったころの旧師であるだけではな
く、生涯の師であった。先生は無類に優し教師であるとともの、市
井の歌人であった。私は先生によって最初に文学と人生を教えられ、
ついで先生の母校(神宮皇學館)に進み、人生の方向は決まってしまっ
た。私はそのことに感謝している」と、あとがきで述べている。
足立はこうした恩師への深い敬愛の念と思慕の情を支えとし、ダン
トツの記憶力を発揮して先生のちょっと一風変わった教師ぶりを描く。
短歌の同人誌を毎号、苦労して編集、自ら手刷りで印刷、また美人の
芸者とのはかない蓮衣に思い悩む。不潔にさえ思えた唐突な結婚、
神宮皇學館受験を二回失敗の浪人中の足立への国語の補修、、」ひそ
かに社会主義に同調する先生、わが子の誕生に狂喜乱舞の先生、そし
て、あっけなく42歳でこの世を去った先生。春の夢のような人生だっ
た。その後、足立は先生の生涯を調べようと東北地方の先生の出た中
学を探し出し、訪れる。単に評伝、伝記小説ではなく、教師と生徒の
出会いとこころの深いつながり、・・・・・・である。
タイトルは戦士絵の「夕暮れに苺を植えて植え終えず雨降り出でぬ
ぬれつつや植ううる」からとった。
足立巻一
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