椎名麟三『懲役人の告発』1969,椎名麟三版、日本流不条理の哲学の展開か

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 椎名麟三は戦後、昭和20年代から30年にかけて多くの作品、
長編を矢次早に発表した。椎名麟三は昭和22年に『深夜の酒
宴』で戦後の文壇にデビューした。その後『重き流れの中に』
、『深尾正治の手記』、『永遠なる序章』、『その日まで』、
『赤い孤独者』、『邂逅』と、やや自己流の実存主義という
意識で、その意識の過剰な重圧にさいなまれるというモチー
フの作品を書き続けた。1911年の生まれ、明治と大正のはざま
の時期だ。中学三年に家出し、さまざまな職業を転々とした。

 この『懲役人の告発』は1969年、昭和44年で久々の長編だ
ろうか。主人公とは24歳の青年で関西のある町、、兵庫県と
思われるS町に住んでいる。父親は県庁の福祉課長を務めてい
たが、相場に手を出し、失敗して現在は駄菓子屋を営んでいる。
54歳でその妻は後妻で55歳、主人公には中三の弟がいる。四人
家族だ。

 主人公の青年は隣のK村、播州製缶工場で働いている。毎日
、徒歩通勤をやっている。この工場の社長というのは父親の弟
叔父である。50歳でその妻は35歳、12歳の娘がいる。少女は主
人公の義母の連れ後で叔父の養女となり、非常に甘やかされて
いる。人生の落ちこぼれの主人公の父親とまずは成功者の叔父
とは仲が悪い、・・・・・・というのがおおまかな登場人物の
配置である。で主人公は大阪の運送店に勤めていた時、交通事
故をやって死亡事故を起こし、違反も重なっていて実刑、懲役
四か月の判決を受けた。三か月で仮釈放にはなった。・・・・

 という具合でちまちまと下積み人間の冴えない苦難の生活が
綴られている。あれこれあって主人公は首のない黒犬の幻影を
見る。この幻影が主人公の虚無、を象徴しているのか、絶望を
象徴しているのかどうか、ともかく主人公は何もかもうまくい
かず全世界から存在を否定されているかのようだ。

 それをカミュの「異邦人」になぞらえての「実存主義」をモ
チ^フとするのかどうか、多分そうだろう。

 「こうちて歩いていても、身体のやつの俺の心に対するよそ
よそしさを感じてしまう」、「俺は知らないつもりでも、手の
奴は俺の頭をさすっていた」、「肉の奴が彼女の葉をくわえ込
んで痛がっていた」とか、こういう文章、思考のスタイルが椎
名の表現したい「実存主義的」人物像、日本版ムルソーとうの
だろうか。心身の分裂であり、また疎外である。

 椎名麟三作品の特徴の女性のシンボル化、だと思うが、少女
が疎外、絶望からまぬかれる自由の女神のような存在になって、
その争奪戦が繰り広げられ、主人公の父親は自殺、叔父はその
少女を殺す、

 不条理の展開ということだろうか。何か、私はちぐはぐを感じ
てならない、非常に不自然である。

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