今日出海『怒れ三平』1953,万事にほどほどの痛快物語

images (3).jpg
 作家の今東光の弟、初代文化庁長官、晩年は兼務の役職は
80にまで及んだという、文化人、名士であった、報道班員で
フィリピンに、山中を逃げ回って奇蹟の生還を果たした。昭
和20年代に『天皇の帽子』で直木賞受賞、この『怒れ三平』」
は毎日新聞に連載された小説、実際、今日出海の小説家とし
ての代表作である。

 話は真夜中の東海道上り「二等列車」内での三人組の強盗事
件から始まる。駅弁、というか当時は汽車弁というのだが、そ
の汽車便を何人前を平らげた、たくましい若者が模造拳銃を手
にした一人を投げ飛ばし、結果骨折で虫の息となり、他の二人
はほうほうのていで逃げ出した。この頼もしい若者、青年がこ
の小説の主人公なのだ。名前は九谷三平、素朴で善良、力持ち
だ。船長のたっての頼みで、その託された謎のカバンを携えて
いる。東京のある人物に届けようというのだ。

 列車が静岡に到着と同時に、三平は投げ飛ばされた二人とと
もに一緒に下車し警察に出頭しなければならない。あの、どさ
くさまぎれに、隣席の、追放解除(時代を感じさせる!)になっ
て今度の衆院選に打て出ようとする、若い女を連れた、いかさ
ま紳士に、かんじんのカバンを間違えられて持ちされてしまっ
た。一列車先である。そのカバンの行方を追って、三平は熱海
の旅館に乗り込んで、さっきの連れの女の助けもあってかろう
じてカバンを見つけ出す。実はそのカバンにはドル紙幣がつめ
込まれているのだ。密貿易か何か、クサイ資金らしいが、三平
は全くそれにはむとんちゃくで、依頼された通りの東京に人物
に手渡すことが出来たら、それで役目は終わると考えている。

 だがボスの手に渡されたドル紙幣入りカバンは、その後、万
吉に盗まれ、これめぐって三平、万吉の姉などの追跡があり、
列車強盗の首謀者のマボロシ軍吉も絡んでくる。・・・・

 とまあ、全くの大衆娯楽小説なのだ。新聞小説だから仕方な
い面はある。でも、えらく単純すぎる気がする。恋愛的要素は
どうも皆無だ、では単純で善良な力持ちの三平はこの世の悪に
挑戦するお話かといえば、またどうもそうでもないのだ。三平
の力自慢は最初だけである。適度に単純、適度に正義派的、適
度にスピーディー、何事にも特段に深入りしない。また社会批
評の要素もないに等しい。

 まあ、戦時下、フィリピンに報道班員で、戦乱に巻き込まれ、
山中を命からがら逃げまわって命拾いした、まだその精神的な
後遺症があるのかもしれない。

この記事へのコメント