、五味川純平『歴史の実験』1959、思想的小説を目指せども、果たせず

ダウンロード (90).jpg
 あの大長編『人間の条件』に続く代表作ともされるが世評
となると、どうか、である。

 五味川純平、1916~1995,大連生まれ、東京外語英語科を
出て1943年、召集され、満州に。ソ連軍侵攻で部隊は数名を
残して全滅、その数名に入って1948年まで抑留生活。

 物語は敗戦直後の満州のある工業都市、その町は「巨大な
軍需会社だけで成り立っており、人口の大半がその会社の従
業員と家族である」。で、敗戦後は共産党系の市政府に支配
されている。

 この町に残留の日本人は既に売り食いするものも底をつき、
早く帰国したという一心だった。だが、この残留日本人の中
の七、八人が「解放連盟」というものを作り、市政府に協力
することになった。主人公の田波もその一人である。彼は革
命にもヒューマニズムが必要と信じ、中国での共産党の革命
が日本人に悪い印象を与えることを危惧している。

 このような思想を持つ田波が市政府の当局者や、残留日本
人、解放同盟の他の面々とトラブルを起こすのも自然のなり
ゆきだった。そんなゴタゴタが続いている間に、国民党の軍
隊が北方からこの町に進撃してきた。

 ある朝、解放同盟の連中は、彼らが協力したと思っていた
市政府の幹部に捨て去られていたことに気がついた、市政府
も幹部は町を逃げ出していた。それにつられて、解放同盟の
連中もこの町から逃げ出していく。

 大雑把に言えばこんな話だろうか。だが結構な長編だ。も
ちろん『人間の条件』ほどではないが、っでもまともに読む
退屈の極みである。半分を至難だろうか。・・・・・それは、
この小説が長さにふさわしい内容を持っていないからである。
主人公の田波が革命について同じような議論を繰り返すのだ。
これがまた単調で退屈なのだ。

 だが前作の映画化のこともあってか、作者は何か所も映画
的場面を散在させている。まるで当時の外国映画から借りて
きたようだ、でも、それがまた空々しい。舞台となった重工
業都市がさっぱり描かれていない。話は田波が解放連盟のと
自宅の間を往復するだけで進められている。

 残留日本人の実態、いかなる勢力を持っていたのか、作品
からは分からない。共産党系の市政府といっても登場するの
は三人ほどだろう。背後も分からない。

 で田波の革命理論だが、この長編の中でくどくど述べてい
るかのようだが、分からない。作者自身、まともに考えてい
ないせいだろう、要は五味川順平は思想を語るような作家で
はないと思える。ストーリーで言えば、この数分の一くらい
で余裕で書けそうなものだ。人間のドキュメンタリー的大長
編は『人間の条件』で書き尽くしたから今度は思想的小説、
だったのか。

この記事へのコメント