竹山道夫『白磁の杯』角川文庫、洪水の予測を行ったものの悲劇

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 こういう内容だ。今を去る八百年余り前のこと、中国北部の
鉅鹿(きょろく)町が、一夜のうちに大洪水で埋められたとい
う話である。この町は白磁の名産地であったが、洪水で土に埋
もれた町の上に、また新しい町が出来ている。

 土の下の町については、ただ古い記録だけが残っている。そ
れによれば、町の人たちは眠ったまま洪水に埋められたそうで
ある。偶然、竹山道夫は中国の古い白磁の杯を見る機会があり
、その美しさに強く惹かれたという。古い記録の連想も手伝い、
この杯をめぐって遠い古い町の滅亡のありさまを空想し、書い
たのがこの作品だという。そういう謂れを語るところから始ま
っていく。

 鉅鹿の町が洪水に見舞われるという予言をして、そのために、
あれこれ心を砕いた人物がいたのだった。蘆士賢という人物で、
この町に新たに着任した若い官吏だった。彼は町の近くを流れ
ている子牙河を綿密に視察し、堤防の修理が長く放置されてい
ることに不安を抱いた。辺りの土壌にも多くの変化がみられ、
もしこの川が氾濫したら、とんでもない事態になると思えた。

 しかし、町民はもとより、長官も士賢の危惧に応じる者はい
ない。それというのも道教が広がり、超人的魔術を行うという
道士の言葉を信じ込み、ただただその日その日の享楽に溺れて
いた。迫りくる現実の脅威には無冠詞であった。白磁の杯の縁
で結婚した士賢の恋人もそうだった。

 たまりかねた士賢は、はるばる都に出かけ、中央政府にこと
の次第を報告した。政府の調査団が町に来たとき、道士たちの
予言を信じ込み、町を挙げての乱舞のお祭り騒ぎの最中だった。
士賢は調査団とともに町民に堤防改修を説くが、耳を貸すもの
はにない。

 士賢と采々との結婚式の夜、洪水が襲ってきた。瞬時に水は
この町を破滅に追い込んだ。迫りくる水の音を聞いても、「幻
しの洪水」と町民は思った。子牙河のほとりの鉅鹿の町は町民
もろともこの世から消え去った。
 

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