アーヴィング·ストーン『馬に乗った水夫』1967,ジャック・ロンドンの波乱の生涯の伝記

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サブタイトルは「ジャック・ロンドン、創作と冒険と革命」
、あの『野生の叫び声』The Call of the Wild の作者、ジャック
・ロンドンの伝記である。昔、旺文社から「英語ライブラリー」
という英日対訳のシリーズがあり、そこに含まれていて購入した
記憶がある。買っただけでほぼ読まなかったが。ただコラム的な
ページで日露戦争取材中で日本軍兵士に何か身分証明書を調べら
ている写真があったのが印象にある。またその説明で「ジャック
・ロンドンは日露戦争を取材し、黄禍論に染まってしまった」も
印象にある。

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 そのジャック・ロンドンの伝記である。時代は20世紀が始まっ
た頃、アメリカ文学に新たな生命を吹き込む一人の若い作家の活
動が始まっていた。欧州文学や日本文学のような、きめこまさは
ないようだ。彼は、たちまちのうち『野生の叫び声』がベストセ
ラーに、文名が確立された。実は当時、世界で最も原稿料の高い
作家だった、というほどの人気作家となった。ロンドンは大金で
ヨットを建造し、それで世界旅行に出て、また広い土地を所有し、
壮大な邸宅を建てようと考えた。同時にラジカルな社会主義者で
あった。外見も魅力があったようでアメリカの左翼は大統領候補
に推そうともした。

 だが出生は、奇怪な占星術家と奔放な若い娘との間で、中絶の
要求を巡る自殺さわぎの挙げ句に生まれた婚外子であり、貧窮で
小さな時から肉体労働に従事し、また密猟という脱法行為を行い、
大陸を浮浪するようになり、アラスカのゴールドラッシュに駆け
つける、ほぼ独学で独創的作家になったということで、文学にお
える「アメリカン・ドリーム」の実現者、とされるようだ。

 だがその実態は、アドヴェンチャ好きな行動主義者でありなが
ら、しょっちゅう自殺寸前の憂鬱症に襲われたり、有り金を注ぎ
こんでの豪華ヨットも実は欠陥だらけの代物で、クルーのならず
者だらけで、その出港後の生還はロンドン自身の体力と技術だけ
に依存、作品の大ヒットでの収入はあっても不安定で、生涯の夢
であった豪邸建設も完成した日に火災消失の憂き目にあう。それ
やこれやで1916年、41歳でロンドンは自殺を遂げる。

 その死はアメリカのみ成らず、世界的に大きな衝撃を与えた。
その頃、ある女性の「笑ったりしないでよ、ジャック・ロンドン
が死んじゃったのよ」という言葉がそれを端的に表すという。

 実はこの本は原書は1938年に刊行されたもの。「世界の青春と
英雄的な勇気の一部をなしていた」とされるジャック・ロンドン
の伝記なのである。評伝の古典とされる本であるが、内容は陳腐
さはまったくない。その時代背景も取り入れているのは巧みだ。
日本人はほぼ知らないが、ジャック・ロンドンという作家の生涯
が桁外れの冒険性に富んでいた、ということ自体が魅力の源泉と
いうことだろう。
 



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