由紀しげ子『女中ッ子』1955,戦後第一回目の芥川賞受賞者による家庭小説
由紀しげ子、1900~1969による1955年、昭和30年、「小説
新潮」に発表された作品、それ以前に『本の話』で戦後初めて
の芥川賞を受賞している、1949年である。で、『女中ッ子』、
発表されたその年に日活で映画化され、左幸子主演でかなりの
ヒット作となったようだ。まずこの映画が圧倒的に有名である。
長い映画で140分以上もある。現在はPrimeVideoで観られる。
非常に長い映画なので原作も長い、と思ってしまいがちだが、
実は短編小説である。『女中ッ子』であって『女中っ子』では
ない。以前VHSビデオで『女中ッ子」を持っていてオークショ
ン煮出して売れた時、落札した人が「子供の頃、映画のロケを
見て非常に思い出の映画です」と書いて送っていただいた。東
北の人だった、・・・・・が作者の由紀しげ子は関西人で上京
したというタイプで東北とどうも結びつかない。だが由紀しげ
子はなかなかの実に小説巧者である。
で短編集『女中ッ子・この道の果に』に六篇の短編小説が
収録されていて、その表題作の一つが『女中ッ子』であった。
内容は中学を出て山形から東京に女中奉公のために出てきた
一人の女性、といって中学をでたばかりにしては、その時点
左幸子は明らかに老けている。別に映画では中学を出たばか
りとは言っていない。
ともかく山形から東京へ、ある幹部クラス会社員の女中に
来たわけだが、そのハイクラス会社員の家庭の歪みを描いた
のが原作である。主人公の名前は「初」、その初がこの家に
来て驚いたのは、何ともいかめしい顔をしている主人の恭平
が家庭内で誰の相手にもされていないことであった。この家
では梅子夫人だけが権勢を振るって怖れられていた。全てが
梅子中心に廻っていた。
梅子夫人は派手好きで活動家、PTAやいろんなことで外出
している。・・・・・
恭平と梅子には三人の子供がいる。雪夫14歳、勝見9歳、
末娘のあきらが8歳、他に家庭教師兼バイト学生の若月、女
中代わりに来ている親戚の娘、ひろ子、それと女中の初がこ
の家に住む面々である。
雪夫は秀才タイプで体が弱い、同時に周囲の誰からもかわ
いがられるという思いが甘えを与えている。末娘のあきらも
甘やかされている。すでに特権的女性の持つ悪徳の多くを備
えている。次男の勝見は家庭でも除け者にされている。粗野
で荒っぽく可愛げもない。梅子夫人の悩みでもある。勝見の
ヘマを初はいろいろサポートをした。隠して飼っている子犬
の世話も初はやった。徐々に勝見は初になついた。
旧正月で山形の実家に初が戻ると勝見が初を追って無断で
汽車に乗ってきた。心配した梅夫人が山形まで迎えに来る。
梅子夫人は勝見が初に懐いているのが不安でならない。初は
勝見の秘密の罪の身代わりとなり、暇を出される。
山形から東京に女中奉公でやってきた初、出来が悪く、除
け者にされがちな勝見、このコンビに子犬なども加え、虚栄
の強い主婦の支配する中流の中の上級の家庭の中の歪みを描
き出す、・・・・・一般的な手法かもしれないが、この由紀
しげ子という作家は実にうまい、構成も描写も、である。
基本、中間小説だが巧者な作家、それが家庭小説に向かっ
た場合、やはり巧みさを痛感させる。東北とは縁が無いのに、
東北を描いてもそつがない。
この短編集の中の文章
「小さな願い、小さな企み、小さな間違い、小さな賢さ、
小さなおかしみ、そんなものの前に立ち止まって、私は愉し
みながら、または心を傷めながら、こんな小説を書いた」
確かに作者の心をそのまま語り尽くした言葉と思う。
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