大岡昇平『母』1952,短編集、小説というよりエッセイ風の9作品収録

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 1952年、昭和27年に文藝春秋新社から刊行された大岡昇平
の短編集で、古書である。昭和41年に新潮社から『母六夜』
と共通の作品はない。すでに、その時点で『武蔵野夫人』、『
俘虜記』を発表していた。

 古書である。大岡昇平自身が自らの両親を語った『母』、『
父』。引き揚げ専用列車で盗賊団と乗り合わせたという『愉快
な連中』。また復員し、文学上の先輩や友人の誰彼を訪ね歩く
『再会』。妻の疎開先の田舎にいて、レイテ戦線で散々な目に
あって妙な頭の調子に悩みながら、戦場での経験を書き始めた
頃の話『神経さん』など9作品。

 ただ短編小説というより、いたってエッセイ風である。『母』
で「彼女との長い会話をいちいち構成していては、あまりに小説
になりすぎるであろう」とあって、確かにエッセイということな
のだろう。といってエッセイと私小説とも区別しにくいことも多
いから、短編小説思えば短編小説だろう。

 大岡昇平が仏文の出身でスタンダールに傾倒していて、日本語
でも文体に相応の影響があるというのは早い段階から定評となっ
ていた。で、理屈屋で気難しさのある大岡昇平であり、小説では
何か特に構えているようなスタンスがあり、その何か感じるハー
ドルめいたものはエッセイでも確かにある。何かに突き当たるの
だ。

 大岡昇平の小説、昭和20年代前半に文名を挙げた『武蔵野夫人』
、『俘虜記』で『俘虜記』の方がいい、真実性があっていい、と
思っている人が多いと思うが、このエッセイ集にもその原型がある。

 『母』大岡昇平の母は芸妓だったわけだが、無論、その母を語っ
たものだ。男の子の母への思慕、まあ私のように毒親を持ってしま
って思慕の念などカケラもない人間には想像しくいが、ともなく思
慕をベースにした『一寸法師後日譚』と『停電の夜』の二編、さら
に『鷹』という過剰保護的な母、その病的心理を描いたものもあり、
著者の関心が特別に『母』にあるようだ。

 『一寸法師後日譚』では一寸法師が後に普通人となり、かって肩
に乗せて母親のように可愛がってくれた姫君と結婚したのは、母子
相姦の始祖伝説に興味をひかれているようだ。

 『鷹』では母親が子供への保護権を濫用する結果、子供の正常な
精神の成長をはばみ、娘が精神異常、狂人となるという話。

 この狂った娘が入院の精神病院が語る言葉で狂人のことを「我々
は蓋然的な電撃療法や睡眠療法を用いて、正確には分からないが、
とにかく治す。二、三のもつもっともらしい原因から人間心理の道
筋を立てて見せる小説家の心臓には、おれは実は呆れてるのさ」と
いうのがある。

 どうやらその小説家、「二、三のもつもっともらしい原因から人
間心理の筋道を立てる」、・・・・・大岡昇平自身のことらしい。

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