伊藤整『花ひらく』1953,タイトル通り花が開いた劇作家の話、作者の体験が組み合わさった佳作
伊藤整の作品としてはあまり知られていない気がするは、
新聞連載の作品で実に巧みな佳作だと感じる。
劇作家で評論家の木村玄は、文京座という劇団のために
脚本を書き下ろさねばならないが、どうにもうまくペンが
進まない。そこへ谷村、水野という二人の青年が訪ねて来
た。水野は札幌から上京してきたばかり、大和大学(現在、
同名の大学が大阪の吹田にあるがそれではない)の新入生
である。谷村は前年に上京していて、文京座の俳優養成所
の生徒である。
木村玄は二人の青年と外出し、ビールを飲むが妻の京子
に小言を言われ、どこか他所に仕事場が欲しい、と口に出
してしまった。伏線として玄は堀朝子という女優といい仲
になったことがあり、それ以来、同じく女優出身の妻の京
子は玄に何かナーバスになっている。玄の娘のハルミは水
野と同じ大和大学に入学したところである。
三日目に玄は遂に実際に家出をしてしまう。妙に崇拝し
ていたある歯科医の家の一室にかくまわれる。玄の失踪は
新聞にも出たほどで、家庭内の言うに言えない事情とされ
た。また左翼運動とも関連がある、とも噂された。といっ
て実際のところ、家族愛はありながら一時の感情で飛び出
しただけである。玄の行方探しが始まったが、その人々の
中に文京座の劇団員、玄の姉、娘、娘と知り合いになった
水野、谷村もいた。ところが玄は雑誌編集者の一人に見つ
かって、文京座のためにを自分の書いた脚本をその雑誌に
売った。
玄は理髪店に行って勧められるままに、白髪を染めた。ま
た。さらに歯科医の言うままに総義歯を入れて口元はおおい
に若返った。その若返った姿?でかっての恋人の堀朝子や
知り合いの男性だが評論家などに街で出くわすが誰も気づか
ない。玄が無事と安心した妻の京子は夫の脚本による演目に
出演し、女優復活となった。娘のハルミも水野との間に恋愛
が芽生えていった、・・・
という具合で新聞小説だっただけに、次に関心、興味を引
くように、結構、巧みには書かれている。
最初述べたように、伊藤整の作品ではあまり知名度が高く
ない。まあ通俗小説の一つとみなされているにせよ、実に
きめ細かく描かれている気がする。全体にユーモアが感じら
れるが、風刺はほどほど、まあ、チャタレイ裁判も進行して
いたのだから。学生、大学教授、作家、評論家など、自分自
身の体験が個別に分身になっているような気もする。といっ
て私小説でもない。モデル小説でもない。
だが、今となれば、…‥忘れられた作品だろうか。その懇切
な設定も時代の流れではげ落ちて見えてしまう。作者は北海道
時代の恋人、「根上シゲル」といそいそと再会したりしていた
時代である。悪いことはできないものだ。
映画「花ひらく」松竹 1955
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