サルトル『ユダヤ人』岩波新書, 反ユダヤ主義についてのサルトルらしい鋭い分析。サルトル入門にも好適か

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 イスラエルとイランの対立、かってが周囲のアラブ諸国との
対立、世界を揺るがした。そして今もだが。ホロコーストの超
惨劇、なぜ?日本人はそもそも無知だ。なぜ?ユダヤ人差別が
ヨーロッパで存在していた?それを知りたいと思うのは当然だ
ろう。日本人から見りゃ、何も変わらない白人ではないか。むし
ろ魅力に富む。そこでサルトルだ。

 戦後まもなく、1947年にサルトルが発表の『ユダヤ人問題に
ついての考察』の翻訳で岩波新書。サルトルはその前年、アメ
リカの黒人差別問題をテーマとして戯曲『恭しき娼婦』を発表
している。

 さらに根本的にはそのさらに数年前から実際の活動では明ら
かに社会主義を志向していた。というか革命志向だった。だか
らサルトルが文学者としてユダヤ人問題について書いたのも当
然だろう。

 だが、本書に述べられているユダヤ人問題の分析、批判は、
その皮肉でなく豊かな文学者としての教養を駆使し、鋭い観察
、実に的を射た分析を成しえている。独自のどんどん迫ってく
るような叙述がユダヤ人問題を、それと縁遠い日本人の心の奥
底にも迫るものがある。

 サルトルがこの本で示そうとしたのは、ヨーロッパ社会とい
か広範囲なエリア、欧米に長くもう2000年を越える年月、根を
張り、多くのユダヤ人迫害の悲劇を生んだ歴史的問題、それは
決してユダヤ人自身に責任はなく、反ユダヤ主義に染まった側
の責任と明確にしている。それはキリスト教徒からナチスに至
るまで、どころでなく庶民レベルで浸透している反ユダヤ主義
ということだ。

 さらに、反ユダヤ主義に反対し、ユダヤ人側についた自由主
義者、ヒューマニストさえもユダヤ人の存在を根本で認めてい
ないという。

 むしろ、こうした反ユダヤ主義のため、ほかならぬユダヤ人の
内部にまで反ユダヤ主義が生まれていることを指摘し、ここらの
分析の鋭さはさすがにサルトルだ。その論理の積み上げはさすが
なのだ。サルトルは反ユダヤ主義者の指摘するユダヤ人の特質が
生まれた理由を明快に解明し、下手すりゃ、反ユダヤ主義に材料
を与えるのでは、と懸念されるほど。

 だが日本人には遠いユダヤ人問題で、ホロコースト否定が南京
大虐殺否定と重なるという日本人保守の趣向など、極右のみなら
ず現在の高市に至る戦争民族加害否定がユダ人迫害のでっち上げ
論か、迫害肯定論というユダヤ人迫害日本人版だけは存在という
のも否定できない。実は日本人差別を決して報じない国内メディ
ア、縁遠いようで実は縁遠くないのだ。

 サルトルの論述の骨法を学ぶという点でも長すぎず、適切であ
る。

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