ハロルド・ラスキ『信仰・理性・文明』中野好夫、副題は「歴史的分析の一つの試み」

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 ハロルド・ラスキ、Harold Joseph Laski,1893~1950,イギリス
の著名な政治学者だが実際の政治への関与、労働党入党、さら
に1945年には労働執行委員というほど政治にのめりこんだ。後
半は左傾化が顕著でそれがその後の労働党の疑似共産党化をもた
らした。

 さて、この本では副題で「歴史的分析の試み」とある。ラスキ
は幅広い学識で、古今東西の宗教や哲学、文学などを自在に引用
して歴史と文明を批判し、人間の絶望と希望を語っているのだ。

 政治学者であり、同時に何より実践運動家であり、文明批評家
でもあったラスキの学問と実績に裏づけられているが、予備知識
はさほど必要ないと言っていいのかどうか、だが、それほど予備
知識は要求していない気はする。ラスキが親しい友人たちと日常、
語り合い、また考えて続けていること、などをまとめた本のよう
であり、イギリスの進歩的文化人の認識をよく表現している。

 訳者はあの中野好夫で自身で序文を書いていて「極度の多忙の
中で筆を執ったものであろう」とあり、原文は解釈が容易でない
文章もかなりあったそうだが、大戦末期、ラスキが戦時の多くの
任務に追われながらも、大戦が負っている歴史的意義の重大さを
思い、どうにも語らざるを得ない気持ちにかられて、せわしなく
書いたことは認められる。それだけに、ラスキの憤激と情熱がそ
の筆致に溢れているかのようだ。

 セクションは「青年の運命」、「勝利の逆説」、「信念の回復」
、「ソ連的理念と勝利」、「新価値の源泉」などあり、全部で16
ある。一つのセクションでも前のセクションで論じた内容の繰り
かえしもあり、最初から順を追って、というわけでもないようだ。

 でその「言いたいこと」なのだが、どうも以下の二つに大別され
そうだ。

 われわれは共同体的な努力で枢軸勢力が決定的、同時に壊滅的な
敗北に向かっているが、同時に彼らのよって立つ反革命そのものを
壊滅させることは重大な仕事だ。勝利は自由とデモクラシーが可能
なような条件を作り出すことくらいは出来ても、その実現の保障は
ない。戦後の事態に至って、その性格についてはまったく決まって
おらず、そこにモスクワとロンドンの間には計り知れない深淵があ
る。

 文明の歴史で、ローマ帝国の崩壊時代ほど悲劇的な時代はないが
、この大戦の戦後はそれに匹敵かそれ以上の大変革期であり、大戦
で従来の価値体系がローマ帝国を支えてきた基本的原理のように、
崩壊し去ったと思われる。政治と道徳の退廃が露呈し、人間の醜さ
には絶望するばかりだが、ローマの支配階級からは軽蔑の目で見ら
れていた貧困層のキリスト教信仰が文明に新たな息吹を与えたこと
を思うと、各人の福祉がそのまま同時に他人の福祉であり、その剥
奪はあってはならない、という新しい社会主義の原理を奉じる者た
ちの勃興にラスキは希望を抱くという。

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