ハンス・ハーベ『オフリミット』1957(一橋書房)米軍に占領されたミュンヘン市民たちの様子
翻訳は1957年、昭和32年、加藤衛の訳で一橋書房から刊行さ
れた。著者はハンス・ハーベ、Hans Habe、1911年ハンガリー
のブダペスト生まれ、ウィーン大学などで学び、国際連盟本部
でジャーナリストとして活動、第二次大戦ではフランス陸軍に
所属、ドイツ軍の捕虜に、だが逃亡に成功。その体験記は評判
をとった。その後、アメリカ軍に加わった。戦後は独逸ジャー
ナリズムの再建に努め、ハリウッドでのシナリオ執筆も行った。
1945年5月、ナチスドイツは無条件降伏した。だが現実、その
占領は容易でなかった。別にレジスタンスがあったわけではない
が、何かと抵抗は多かった。1948年当時の米軍占領下のミュンヘ
ンを中心として小説として執筆したものがこの本である。
列車は占領軍のためだけに動き、都市は互いに切断され。「中
世的孤独の中に沈んでいた」。パンを求め、放浪する者も多いが
、反面、女も、旅行許可証も、何でも買うことが出来た。配給の
全部とスープのある部屋を提供するという28歳女性の求婚の広告
に2500人近い男が申し込んだ、などという新聞記事もあった。
このような「惨めさと投機」の世相を背景として、勝利者と敗
北者の相克が述べられる。
登場人物は主なものでも20人を越えそうだが、ユダヤ系の両親
をもつアメリカ軍の情報将校の兄弟のフランクとジョージが、こ
の小説の展開の役割を果たしている。兄のフランクは占領政策を
誤りなく遂行しようとする真面目な性格で、弟のジョージは逆に
悪徳将校の典型だった。この二人は少年時代に伯母に連れられ、
アメリカに移住、そこで育った。
フランクは旧知のアーダムというドイツの医者が戦時中にユダ
ヤ人である自分の母を救ってくれたことに感謝するが、アーダム
はドイツ人全体を犯罪人視する米軍、占領軍のやり方には反対し、
片っ端から捕縛される人々の釈放運動を懸命に行う。アーダムは
ナチスにも反対した筋金入りの自由主義者だ。
フランクは少年時代の時の恋人エリザベートが、ヒトラーに
近かった高官の夫人となって、戦後、収容所に放り込まれたこ
とを知る。戦犯とされて彼女も裁判かけられた。彼は戦犯に心
をさしはさむことは憚れたが、ドイツ人全体を戦犯的に扱うの
ではなく、個人個人で冷静に判断すべきと考えていた。
弟のジョージも少年の時、エリザベートに恋心があり、兄も
エリザベートに執着するのを苦々しく思い、エリザベートに近
づくのは占領軍の規範違反だと脅す。
ジョージは職権を利用し、銀行頭取の邸宅を自分個人のため
に接収したり、その令嬢を誘惑したり、ナイトクラブに出入り
し、闇商人からの収賄したり、悪事を重ねる。ジョージを逆に
利用しようというドイツ人もいるが反発も多い。
ドイツ軍兵士だったもので「戦争は実はおわっていない。
敵軍兵士が上がりこんできただけだ」という者もいる。「
いまにアメリカ軍はソ連に向けて進軍する。誰がナチス親衛隊
だったのか、どの親衛隊がレジスタンスを行うものを殺戮した
のか、なんて問われなくなるさ」とタカをくくる元ドイツ軍
将校もいる。
子供の木馬まで取り上げようというアメリカ軍兵士をドイツ
市民が取りかこんで批判を浴びせる、ような抵抗も起きてきて
いた。
占領軍の女性将校のケバケバしい服装や、PXにおける奢侈
贅沢な買い物、占領軍の女性は実戦の経験と苦難をしらないの
で勝利を履き違える傾向が強い。
などなどジャーナリストらしく、占領地における多くの出来
事を集めて一種の映画的構成に仕上げている。のちにハリウッ
ド進出の素養を感じさせる、終戦後の日本と似ている部分もあ
あるが質的にはどうにも異なるようだ。
作者 ハンス・ヘーベ Hans Hebe ,1911~1977
Off Limits (1955); Off Limits, English translation by Ewald Osers published in Great Britain by Harrap, London, 1956 with dust-wrapper by George Adamson
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