コリン・ウィルソン『発端への旅』コリン・ウィルソンの自叙伝、「アウトサイダー」へ至る苦難に満ちた歩み
あの『アウトサイダー』で不朽の名を遺すコリン・ウィルソ
ンだが、彼自身の自伝である。
1956年、イギリスの労働者階級の出身といえる大学にも縁が
なかった、大学に行けなかった一人の若者が、非常な博識を思
わせる、また文学的、哲学的なユニークな著作『アウトサイダ
ー」を世に出し、いちやくビッグネームになった。その言動は
イギリスの出版界を揺れ動かした、支配するオックスフォード、
ケンブリッジなど知的支配階層の圧倒的影響力の中で異端だっ
ただろう。イギリスで高卒以下の文学、哲学的著作の著者は稀
だ。
日本でいと云えば、「アウトサイダー」の売れゆきは大した
ものでも、それ以外の著書はさっぱりだった、と云える。それ
はイギリス本国でも変わらない。コリン・ウィルソン自身が、
その無名時代の苦難と『アウトサイダー』大ヒット以後の別の
意味の苦難、端的に言えば『アウトサイダー』に次ぐ作品だと
思える。自叙伝の魅力だ。
厳重な階層社会のイギリスで何としても世に名を成す、こ
のまま労働者階級の出の高卒、無名な人間で終わりたくない、
という非常に思いつめたような野心、同時に自信、熾烈な読書
、その自信に支えられた人間像がよく描かれていると思う。
労働者階級の両親もまだ若くさらに不和であった。貧窮であ
った。この両親、家庭に育って凡庸な人間ではもはや生きる意
味などないと考えるようになった。大学進学への道が完全に閉
ざされていたわけではない。大学入学資格検定試験も放棄して
しまうと、もう大学への道はない。もう仕事は雑多な労役しか
なかった。だが、コリンはこのまま、無名の労働者で死んで終
わらりたくない、他人に優越したい、この野望は強烈だった。
1931年生まれ、戦後、空軍に召集され、同僚や上官、また
下宿の女主人などとトラブルを引き起こす。周囲から見たら、
全く鼻持ちならない高卒の天才気取り、田舎者、周囲の眼は冷
淡だった。
彼はボヘミアンのような生活を送りながら、このまま埋れた
地位でいるものかと、読書に励み、努力は怠らなかった。何よ
り稀な感受性の持ち主だった。野望に燃え、放浪し、遊びもし、
数知れぬ苦渋を味わった。「このまま終わってたまるか」と大
英博物館に通い、『アウトサイダー』を書きあげたのだ。まさ
に不撓不屈だった。
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