マリアンヌ・ベッケル『クラクラの日記』、思春期の少女の見事な描写(坂口三千代の『クラクラ日記』ではありません)
フランス語の作品であり、原題は Journal de CraーCra,
英訳のタイトルはThe diary of Ugly Duckling、最初、大岡昇平
訳はフランス語からだからそのまま『クラクラの日記』だった。
また紛らわしいのは坂口安吾の夫人だった坂口三千代による
『クラクラ日記』という内容は全く異なる日本の作品があると
いうことだ。だがこの題は明らかに剽窃、である。
さて、フランス語の原題から明らかだが少女の、クラクラの
日記である。クラクラは15歳の少女である。本名はイザベルで
ある。美人の母親と二人の姉に比べ、非常に器量が悪い。それ
で雀の一種のクラクラ、それがあだ名となってしまった。家庭
でも学校でも自分の存在を認めてもらえないクラクラは、その
思いを日記に託して、そこから真実を見出そうとしたのだ。そ
こではクラクラが誰にも支配されず、真実を信じることを書く、
というこの日記は、3月25日に始まり、真の愛を発見した9月15
日で終わっている。
クラクラは利口で聞き分けはいい子と思われている。実は彼
女自身がそういうふりをしているだけで、皆と変わらない人間
だと叫びたいのだ。が、彼女にはそに勇気がない。
姉たちのお下がりを着せられる運命に甘んじているが、もう
その芝居にも飽きてきた。姉や友達の男友達にも強い嫉妬を感
じている。美人の母にこづかれている弱い父親、悪い知らせで
はないかと自分でも電話せず、手紙も開封しない父親には同情
はしても、好きになれない。
公園でいちゃつく男女、愚かな仕草を飽きもせず繰り返して
いる。それを見てクラクラは、自然は女の子は男の子に汚され
るために恋愛というものを作ったのか、と考える。意地悪な教
師が独身なのも気にかかる。
クラクラは母親の反対を押し切って黒い犬を飼い、多少は慰
められるが、その犬もすぐにいなくなった。母親が黙って捨て
たと思い込んでいる。靴屋の息子フレディに恋心を持つが、ど
うしても言い出せない。母と姉がヴァカンスに行き、クラクラ
は父親の世話役となった。そのとき、父あての手紙を開封して
読むと、自分の出生の秘密を知る。
その手紙で分かったのはクラクラはCという女と父の間に生ま
れた子で、Cは14年後の現在でも、父を愛しているのだ。Cはクラ
クラに会うことができた。だがCはクラクラを「哀れな子だ、孤
独にも越えてならない一線がある。何はさておいても、あの子の
手を握ってあげてください」と書き残し、去っていった。
個々のエピソード、小説としてのスジは?と思うと、ぎくしゃ
くしているようだが、それを厳密に考える必要もない、というべ
きか、偽りに満ちた冷酷な環境で、愛されようとあらゆる技巧を
策し、その環境から自分を解放しようと反抗する少女の心の綾を、
心理を書いている。
作者のマリアンヌ・ベッケル、Marianne Beckerはウィーンで生
まれ、学校を出て秘書などの職業を転々とし、フランス人と結婚、
1930年以降はパリに居住、フランスの小説をドイツ語に訳す仕事
をした。戦後、「クラクラの日記」を描いてそれが1950年、英訳
され、話題となった。執筆活動はほぼ1950年代であったようだ。
マリアンヌ・ベッケルとその娘
この記事へのコメント