サマーセット・モーム『五彩のヴェール』、ミステリーのような展開、苦々しい味わいがある

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 サマーセット・モーム、生涯のコンプレックスを持ちながら
小説を書き続けた。根柢に、どうしようもない苦渋を秘めてい
た。何もかも苦々しい、その作品には常に「女に対する冷たい
目」と「人間という、不可思議な存在に対する興味」といえる
のではないか、まさにシニカルである。ただ作品において、つ
いに自分のコンプレックスを語ることが出来なかった。新潮社
版の『モーム全集』に収録の『五彩のヴェール』The paintee
veilだ。あまり著名な作品でもないと思うのだが、その書き出し
な一種のミステリーである。まさに書き出しだ、

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 女は驚きの叫び声をあげた。

 「どうしたんだ」男は聞いた。

 鎧戸を下ろした部屋は暗かったが、女の顔が急に恐怖に怯える
のが見えた。

 「誰かが扉にさわったわ」

 「ふん、アマだろ、そうでないとボーイだよ」
 
 「この時間に来ないわよ、ランチの後に私が午睡をとるって
知ってるのよ」

 「じゃ、誰だい」

 「ウォルターよ」と女はささやいた。唇が震えていた。

 若い医者の妻が、昼下がりに情事にふけっていた時、夫が帰って
きたのであった。夫は何も言わない。不機嫌な日が続いた。

 ある日突然、夫は中国に行くと言い出した。ロンドン生まれの妻
には中国奥地の生活は容易ではない。夫は黙々と診療を行っている。
罪の意識で彼女は次第に、献身的となる。何か聖女化されていく。

 だが夫が突然倒れた。彼女は憑き物が取れたようだった。再び、
あらたえて香港へ。そこで彼は陽気だった。

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 確かに前述の二つのコンセプトがじんわり、心に響くようだ。ど
うも何か、何かが心につかえているようだ。モーム自身のコンプレ
ックスが常に意識にあるからだとも思える。

 

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