上坂冬子『特赦ー、東京ローズの虚像と実像』1978(文藝春秋)力作なれど、承服しがたいひどい内容がある
本のタイトルは、なかなか興味深そうだ。が、ちょっと以上
にひっかかる内容がある。東京ローズはお馴染みだろう、だが
問題は第二章「もう一つの反逆罪」で東京ローズのことではな
く、同じく二重国籍だったアメリカ二世の川北友弥が戦時中の
日本で捕虜となったアメリカ兵に虐待を加えたとされたことで
。アメリカ本国で国家反逆罪に問われた事件である。なら堂々
と川北友弥と書けばいいのに、ノンフィクションなのだから、
だが加藤忠夫という科名になっている。実際、アメリカ最高裁
の判決でも著名なものだ。もうアメリカの市民権は喪失してい
るから国家、祖国反逆罪で起訴は不当という川北の主張だった。
で一審は川北は死刑判決、最高裁でも支持されたが二度の大統
領のによって減刑、16年の入獄後、日本に永久追放された。これ
は事件としてもよく知られている。
上坂は「ローズが特赦なら加藤氏(北川」も特赦ではないのか」
と書いているが、そもそも犯したことの内容が違う。同じ反逆罪
でも中身が違うのだ。それを考えていない。問題の本質は川北が
戦時中、果たして二重国籍者であったのかどうか、だ。戦時中は
日本で日本国民として生き、ふるまい、戦後はアメリカに帰国、
知らぬ顔で米国市民として生きる、これは「御都合主義の市民権」
でしかなく、アメリカの毅然たる国是はこれは断じて認めない。
これが米最高裁の判決の本質だが、上坂はこれを知らないようだ。
判決文を読んでいない。
捕虜への虐待行為、本人が否定は当然でも「30年前の深層は藪の
中だというのが私の持論」という前に、そもそも裁判の記録を十分
読んでおくべきで、それがないなら語り資格はない。川北は「状況
の犠牲者」であっても、裁判での問題とされた行為は決してでっち
上げではなかったのだ。事実は多数が証言しているのだ。
この事件を小説化した夏堀正元の『鎖の園』が川北は占領軍も絡
んだ陰謀の犠牲者とされている。日本向けの小説なのでそれが売れ
るとおもっての小説だろう。上坂がこの小説だけを読んでいた可能
性がある。
ちょっと無責任な、もうとおに絶版だが、本である。
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