山手樹一郎『江戸へ百七十里』1962,「桃太郎侍」のバリエーション、道中喜劇
ところで『桃太郎侍』は今なお人気作品、特にテレビドラマ
は非常な人気があった。なぜ「桃太郎」かだが、桃太郎はやは
り岡山県に縁が深い。それまで博文館の雑誌の編集長と兼業で
作家、小説家稼業をしていた山手樹一郎が作家専業になり、そ
の第一作が現在の岡山の地方紙、山陽新聞の前身、合同新聞で
の連載小説だったので、なら岡山にちなんだ桃太郎を主人公に
モチーフで与え、作品名も「桃太郎侍」とした、いうならば地
元へのサービス精神であった。それが1939年、昭和14年であっ
た。
戦後も時代小説、チャンバラ小説で、戦後長く、庶民の娯楽
トップが映画で、しかもチャンバラ映画が多く、映画になるこ
とを予定、というのか想定しての執筆が多かった。小説では、
むしろ殺生を嫌って、避ける傾向があるが、まあ、剣劇否定の
時代小説大衆作家としては山本周五郎がいる。
実は実は『桃太郎侍』はアンソニー・ホープの伝記小説『
ゼンダ城の虜』の換骨奪胎なのである。概して『ゼンダ城の虜』
では敵役が精彩を放つというが、『桃太郎侍』も原作、映画と
もその傾向がある。
『江戸へ百七十里』は『桃太郎侍』のバリエーションである。
さらにキャプラ監督の戦前の映画「或る夜の出来事」的な喜劇
道中劇の展開である。でも若殿は登場していない、行列が刺客
集団の突破シーンは小説の描写は秀逸、映画は見られないので
分からないが、原作ほどのコク、迫力はないのではないか。
数度の衝突に主人公側の集団はさして痛手も被らず、刺客側が
壊滅する。鉄砲の達人より姫のメクラ撃ちの拳銃の方がはるかに
よく命中だ。痛快なチャンバラ大衆小説である。でも『ゼンダ城
の虜』とは大きくかけ離れている気はするが。とにかく軽快、痛
快だがもう今の時代、読む人がないような気がする。絶版である。
映画、大映「江戸へ百七十里」 1962
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