中村真一郎『長い旅の終わり』1952、五つの長編からなる連作大河的小説
中村真一郎の大河小説、というのか長編五部作が完成したの
は1952年、昭和27年の末頃だった。最後の五番目の作品が『長
い旅の終わり』で完結編だ。この連作長編の第一作が『死の影の
下に』、これは終戦直後に近いタイミングで出た新しい文学とい
うことで大変な好評を博したという。現在では忘れられていると
いっていい大河的な連作長編だが、当初は戦後文学の輝くモニュ
メントとまで称賛されたという。やはり仏文だけにフランス文学
の影響が大きいようだ。
『死の影の下に』は孤独な主人公、城栄の幼年時代の回想に始
まり、プルーストの作品のような心理分析を通じて、純真な魂の
開花と発展を浮き上がらせるが、『ジュオンの娘等』はその内面
的傾向の青年が愛という観念に欺かれる物語であり、そこでは何
人かの少女の危険でなかなか贅沢な青春の発散が展開されるが、
その最後のページは1941年12月8日、日米開戦の当時の朝である。
それに続く『愛神と死神』は大学を出てギリシャ文学を研究し
ている主人公の、1942年における一週間の日記であって、夏子と
いう女性に対する主人公の失恋と友人の、高市清(あの女性と同
じ!)の悲劇的な恋愛が、夢に見た孤独な魂の独白として綴られ
る。社会から閉鎖的に孤立しているこの主人公を、否応なしに巻
きこんでいく戦争問う現実の中で、何人かの人物がそれぞれに複
雑な心理を抱きつつ、離れたり結びつく。
その心理絵巻が『魂の夜の中を』である。最初の二作が、主人
公の一人称で語られるものだが、第三作では主人公のノートの間
に他の人物が割り込み、第四作では主人公は他の人物たちと同じ
位置しか持たず、客観的に描かれる。このような手法の変化は、
味方によれば作者が主人公を外から眺めるまでに成長した、とも
いえないこともない。内面のみならず、外面も描こうとしたため
であろう。だが、連作の長編とみると、何とも一貫性を欠いてい
る、だからその後、半ば以上に忘れられた作品となった要因かも
しれない。
最後が『長い旅の終り』だが、最も客観的に描かれている。こ
こでは1945年1月から8月15日までの日本本土での各人物の動き、
すでに結婚している「シオンの娘等」の戦時下の苦悩と城栄の新
たな覚醒、・・・・・と外地で死に直面の高市清のある夜の切迫
した事件と感情が、交互に、映画的にというのか、映し出される。
複雑な心理の断面、戦争末期の疎開、空襲、外地での孤独と異常
な事件、いたって速いテンポで語られる。映画的な面白さに緊迫
感を与えている。作者が顔を出すこともある。
成功作は?と問われたら純粋な内面世界を追求の『死の影の
下に』と、最も客観的な俯瞰の『長い旅の終り』が特にいいと
思える。
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