筑摩書房版「日本文学アルバム・志賀直哉」1955、生活と作品が対応の志賀直哉のスタイルをよく表す


 文学アルバムシリーズでは現在は新潮社版だが、かっては
筑摩書房版の「日本文学アルバム」シリーズがあった。いま
となれば古書も古書だが、内容的にはひけを取らない。まして
志賀直哉のように「戦後は実質、仕事をやっていない」作家は
昭和30年、1955年版という時点で全く十分すぎるということで
ある。

 かなりの数の写真が載せられている。基本、作家志賀直哉の
ポートレートがその中心となっている。幼児の5歳ころから戦後
の昭和30年近くまでの写真が実に丹念に集められている。単独
の写真が多いが友人などとの集合写真も多く、それぞれの時代
における交友関係がよくわかる。さらに志賀直哉の祖父母や両
親、家族などの肉親の写真や、直哉が一時的住んでいた土地や
、その旧居の写真、直哉の作品に描かれた風景や人物の写真が、
かなり苦心したのでは、と察しが付くほど実に集められている。

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 特に特にだが代表作の『暗夜行路』関係の写真は10ページに
わたって数多くの画像が提供されている。『暗夜行路』での鮮
やかな描写で印象的な尾道の千光寺や京都の街並み、大山や
応挙寺などの風景が、これ等の写真でおおいに興味をそそられ
る。

 何といっても志賀直哉が自分自身の生活からにしか基本、その
題材をとらない作家だったので、この載せられた多くの写真はさ
らに深い意味を持つ。志賀直哉の作品からすでにその生涯、家庭
にすでに知識のある読者が多いと思うが、収録された写真で旧知
に出会ったような感慨を覚える、といって過言ではない。

 例えば直哉が大きな影響を受けたという祖父の直道の何という
のか、古武士のような風格の画像は確かに志賀直哉の文学のバッ
クボーンともなっていると思えないこともない。『和解』は知名
度は高い作品だが、父親の直温、義母、祖母の留女の画像に接し
たら感慨が深いかもしれない。

 それとか「手賀沼の風景」から「好人物の夫婦」、「松江、濠
端の風景」からは「濠端の住まい」を想起するだろう。換言すれ
ば、この筑摩書房版の文学アルバムは、志賀直哉のそれぞれの時
代における生活をよく伝えるし、それがそのまま作品につながる
わけで、まことに興味津々で意義深い。

 構成解説者は志賀直哉とまことに縁の深い阿川弘之で、本当に
直哉の生活と作品に詳しい。数多くの資料から、心憎いほど見事
に適切なものを選び、巧みに配列している。作品中に出てくる
熱海行の軽便鉄道や明治末年頃の客車の画像も実に周到なものだ。

 これらをざっと見て痛感するのは、志賀直哉という人は、実に
恵まれた家庭で、思うままに生きて来れた人、だからこそ生活と
文学を一致させることが出来た人、すなわち稀有な恵まれた人と
いうことである。文学アルバムシリーズでも確かに志賀直哉は特
別な位置を占めるということである。

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