青野聡『母と子の契約』,『愚者の夜』河出文庫など。父親「青野季吉」との父子象


 青野聡、あの文芸評論家の青野季吉の三男だが季吉には正妻
が別にいて、いうならば愛人的女性、松井松栄との間の「三男」
であるという複雑な状況であった。その青野聡が1979年に発表
した『母と子の契約』もしのような複雑な事情のもとの私小説
である。さすがに青野季吉の子供、その血は争えないと思わせ
る優れた文芸作品である。1960年の聡は青野家に入籍を果たし
ている。

 青野季吉には正妻がいたが、松井松栄、その間に三人の子供
をもうけたことは正妻には秘密であった。だがそれも破綻する
時が来る。その過酷な運命を背負った三人の子供を末っ子の立
場から描いたものである。子供の苦しみもさることながら、青
野季吉に巣くう業苦を幼い者の目から描き、実名小説のいやら
しさを感じさせないのである。

 文学者を父親に持つ子供は珍しくないのも当然だが、小堀杏
奴、幸田文、萩原葉子など著名である。森鴎外、幸田露伴、萩
原朔太郎、との愛憎であるがそれも多彩である。

 青野聡には、まずはこれだけは書いておかねばならないテー
マであった。だが芥川賞受賞作になったのは父子象を描いたこ
の作品ではなく『愚者の夜』であった。『母と子の契約』でも
し受賞していたら、親の七光り、ということになってしまうか
らである。キャリアの汚点になりかねない。

 『愚者の夜』はどうも作家としては『母と子の契約』より格段
の進歩が感じられるのだ。オランダ人を妻にした日本人の男、そ
の間のどうしようない基本的な価値観、文明、伝統の違いである。
オランダ人妻の「リノ、あなたが好きだから、あなたの子供を産
みたい」というジニーの言葉は何か、外国人妻の感覚ではなく、
何やら彷徨者となった日本人のリノに現代そのものを与えてくれ
る。

 
 18歳の青野季吉  左端


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