川口松太郎『桜伝内』1964、あらゆる要素を込めた波乱万丈の時代小説
第一回直木賞受賞者にして爾来、『愛染かつら』、『新吾
十番勝負』、『明治一大女』、『蛇姫様』、『女人武蔵』、
『しぐれ茶屋おりく』など数知れぬ天才的作品を生み、また
映画、演劇にも深くかかわった。その業績の偉大さといって
いいのかどうか、その質量は筆舌に尽くせないものがある。
二番目の夫人は三益愛子だが先立たれた。これは川口松太郎、
最大の誤算だったと思う。作家、小説家とみればやはり天才
の一語に尽きると思う。1964年に発表の、1899年生まれだか
ら65歳当時となるが、『桜伝内』もうとおに絶版だが入手は
可能である、この作品、掛け値なしの奔放さが魅力の時代小
説となっている。何というか、徹底的に物語り、徹底的に読
者を架空世界に連れていき、読者をだます。大衆小説の極致
だが、もう忘れられた小説だろうか。
都座に出演中の桜伝内の歌舞伎はケレンものだと言われな
がら、江戸じゅうで評判の役者である。18歳の伝内の立ち回
りの素晴らしさ、すさまじさ、それを見て団十郎も剣道師範
の長沼一風斎も伝内は実は単なる役者ではないと睨んだ。実
際、伝内は二天一流の使い手であった。
ところで伝内は年上の武家の娘、お仙さまと恋仲であった。
お仙は伊達家の家老の伊達安房の妹であり、結婚三か月で夫
に先立たれ、生来の遊芸好きもあり、自分の身分も忘れたか
のように伝内と忍びあいを続けている。
だが伊達家の娘、というより姫ともあろう者が、歌舞伎芸
人風情に入れ込んでいては伊達家の名折れというもので、伊
達家の御用人、石母田左太夫は長沼一風斎に伝内を斬らせよ
うとするが、失敗する。そこで伝内を舞台から身を引かせ、
武士に取り立ててお仙姫と一緒にしようとして、伝内を仙台
へ帰す。
そこで伝内は伊達家の剣道師範石母田進之丞と名をあらた
め、伊達家で剣道の指導を行うが、お仙姫と密会中に、その
お仙を慕う侍、富八郎をあやまって斬ってしまう。殺された
富八郎の妹の藤は逆に進之丞を慕うのだが、お仙姫の兄、安
房の側室となる。そこかた進之丞への報復を狙う。かくして
伝内はまた江戸にもどって舞台に立つ。
それからもさらに話は展開する、がとにかく恋あり、芸あ
り、剣あり、波乱万丈だ。さすがの川口松太郎である。
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