佐多稲子『罪つくり』1957、戦後11年間に書きためた懐古談風の随筆集(全集第17巻収録)
1957年、昭和32年の出版された佐多稲子が戦後、11年間で
書きためた随筆、基本、懐古談、自伝風の随筆集である。便宜
上と思うが、50篇の随筆が六つのグループに分類されっている。
「おてんば」と他五篇は幼いころの思い出であり、著者の周囲
にいた人々についての回想、「ふるさと紀行」他六篇は著者の
故郷の長崎の町についての思い出と紀行であり、「めぎり合わ
せときっかけ」他四篇は著者の文学的経歴にまつわる、非常に
興味深い、資料的価値も高い懐古談が語られている。
著者の佐多稲子が上野の清凌亭で女中をやっていたとき、そ
の客として芥川龍之介、久米正雄、宇野浩二、江口きよし、
佐佐木茂索、小島政二郎などについて受けた印象、さらに黒島
伝治、宮本百合子、武田麟太郎などについての回想談、カフェー
の女給でまだまだ若い中野重治、堀辰雄、窪川鶴次郎らとの遭遇
、その中野重治の勧めで最初の小説を書きだしたこと、「罪つく
り」本のタイトルにもなっている随筆他八篇は自分自身の作品や
その中のモデルについて、作家の立場からの感慨が語られている。
「白髪の太郎」他六篇は主として自然や季節についての随筆が
収められているが、自然と単に自然として眺めるのではなくて、
「楽しかったことより、苦しかったことの方が心にしみついてい
る」というような話である。花が欲しくても花が買えず、雑草や
、笹を花瓶に生けていたという思い出、「小鯵百匁」他十一篇は
身辺の生活記録風だ。でも現代の読者がもし読めば、なんともブ
ツに乏しい過去の日本を感じてしまうだろうが、それが不幸だっ
他かといえば、全然そんなことはない。さりとて貧困の苦しみは
痛切だ。自分が貧しいだけではない。周囲の友人、知人、皆、貧
しく親戚、家族も失業している。そういうことだから、そもそも
お金を目にする機会も少ない。だからお金をかけず生活を楽しむ
工夫、着物、履物への愛着と困惑、実にしんみりした話だ。
終戦後11年間にかきためた随想で、著名な作家、というより、
といって著名な作家ならではの内容はあるが、基本はどこまで
も一人の庶民、ひとりの主婦、一人の作家としてのそれぞれの面
を虚心坦懐というのかどうか、よく伝えているし題材も適切の極
みではある。まことに清い人間性がうかがわれる(今の女性首相
と比べたくもなるが)
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