オクタビオ・パス『弓と竪琴』1980図書刊行会、岩波文庫、詩論を超えた芸術論、文化論
さてメキシコの元外交官で詩人のオクラビオ・パス、Octa-
vio Paz による著書で日本では1980年に図書刊行会から出版
され、その後、岩波文庫として読まれることになった。訳者
は東京外語大、当時、スペイン語科助教授だった牛島信明氏。
このパスは1990年に「ノーベル文学賞受賞」という栄誉に輝
いている。
で、この本、詩論かもしれないが、さらに「詩的言語論」
ともいえるだろうが、さらに深い問題にかかわる、芸術論、
文化論、文明論、ひいては人間論ともいえる。まことに得難
いほどの深い内容の本だろう。
とはいえ、もとより詩論、詩的言語論を述べて追及で、そ
れがさらに深い内容を持ち得ているのか、である。poesie,
ポエジー、詩的世界が何というか、創造的な人間の精神活動
の根源にかかわるものとして捉えられているからである。そ
れは教養ある人なら、アリストテレスが「詩学」といったと
き、それはすなわち、ひろい芸術論であったことの後継とも
いえるかもしれない。
だからパスもアリストテレスの流れを引き継いでいる、と
しても時代は現代である。現代における詩的言語論の人間的
な洞察がなされている。だからそれまでの言語理論や文化人
類学の成果を十分に取り入れているのだ。
『弓と竪琴』は原タイトルに沿った邦題だが、何か意味深
である。そのタイトルの意味は著作中にも、解説でも述べら
れていない。が弓は実用的な武器であり、竪琴は極めて始原
的といっていい楽器であり、その対比で弓から竪琴への価値
の転換、という考えかもしれない。著者のパスは1930年代の
人民戦線に参加したシュールレアリスムの詩人なのだ。1914
年、メキシコ生まれでアメリカ留学後、外務省勤務、駐イン
ドのメキシコ大使など歴任、その述べる内容は重層性に富む。
章として「ポエジーと詩」、「言語」、「リズム」、「イ
メージ」、「彼岸」、「瞬間の聖化」、「回転する記号」な
どでえある。そこで「リズム」について述べられている部分
がパスの考えをよく示しているかもしれない。それが啓示的
な深みさえ帯びているのである。
「リズムは拍ではない。それは世界のヴィジョンだ。暦、
道徳、政治、科学技術、芸術、哲学といったわれわれが文化
と呼ぶ、すべてのものにリズムが根底に存在する。リズムこ
そ、我々の創造の源泉である。二元的、三元的なリズム。ま
た対立的あるいは周期的リズムが、諸制度、信仰、芸術、さ
らに哲学を培っている。歴史もリズムそのものだ。それぞれ
の文明は根源的なリズムに帰着する・・・・」
「すべてはリズムが根源にある」はやや極端な気もするが、
なかなか言えそうで言えない断定である。真実かどうかは確
かめるすべもないが、リズムの喪失という殺伐の中に生きる
人類、だからズバリこの直言は言いえて妙である。
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